****温泉(In The Wild Nature Spa 


施設名 某廃業旅館跡地
場 所 青森県東津軽某所
源泉名
泉 質 芒硝泉
温 度 浴槽43℃ pH 溶存成分総計
お湯の様子 薄白濁透明,芒硝臭,薄金気味,やや熱め,かけ流し
料 金 営業時間

 テレビなどで有名になってしまった某ダムに沈む予定の旧温泉旅館跡地。今も尚お湯が自噴し続けているため有志によって清掃・管理されている。
 この施設は民有地であり,吊り橋前にも「万一のことがあっても責任を負いかねます」と所有者からのメッセージ書きがある。吊り橋が崩落したり,建物が崩壊したり,野生動物に出会ったり,川の増水で流されたりしても全て本人の責任になるということ。そこを自覚した上で訪れるべき野湯だ。
 今回は夏場でありながらアブなどが発生しづらい悪天候の日を敢えて選んで訪問した。

 到着まではかなり難儀したが着いてしまうと達成感でいっぱいになる。最初にある露天風呂は湯ノ花や泥が堆積し,現時点では利用不可能である。川沿いにある岩組みの露天風呂には現在お湯が張られていない。その奥にある屋根が半分かかった風呂はしっかり清掃されきれいに管理されている。その奥にある元男女別の内湯だった場所は建物の崩壊で朽ち果てていた。よって,源泉湧出場所から直接注がせている半分屋根がかかっている浴槽のみが利用できるようになっているのだ。今回はありがたくそこを利用させてもらった。川の横には簡易脱衣所まで設けられており,管理している有志の方々の努力が本当に目に浮かんでくる。改めて心から感謝したい。
 いよいよ浴槽に体を沈めてみる。丁度適温に調整されたお湯は約43℃。熱くもなく温くもない丁度良い温度だ。湯口に石を積み,湯量を調節する仕組みで,前に浸かった人がセッティングしたものが絶妙な温度を作り出していた。実にすばらしいお湯だ。光の加減で緑色に見えるお湯はうっすら白濁していて,湯面からははっきりと芒硝臭が香ってくる。茶褐色の湯花も細かく舞っていて,口に含むと若干金気味が感じられる。素性の良い芒硝泉だったんだろうなぁ,と昔在りし日の旅館の内湯の姿を想像してみた。浴槽の横下には川が流れ,両側が谷になっている。自分以外の人間の息づかいさえ全く聞こえない。これぞまさしく山奥の秘湯だ。
 昔この地まで父親に連れられて湯治に来ていたという人から聞いた話の中に,昔から交通の便が悪く,いつも自炊の米や野菜とかを担いで山道を歩いてきたという話を想い出した。一部だけ崩れずに残っている旅館の建物を見ていると,そんな昔のにぎやかだった旅館の様子がイメージとして頭に浮かんでくる。昔の日本の湯治はみなこうだったはずだ。今は交通が整備され,秘湯と呼ばれる場所まで車などを使ってあっという間に行くことができる。そして何日もかけて湯治するのではなく1泊してその地を後にする…。こんな山奥の温泉文化の名残があと数年でダムに沈むと思うと非常にやるせない気持ちになってくる。タイムリミットはあとわずか。この山奥の地をしっかり踏みしめて,日本の温泉文化を見つめ直してみるのも大切な機会だと思う。

H19/8/4


  
奥に見えるのが守られ続けている浴槽。   湯も縁もたまらなく美しい色合いです。  石を積んで湯量を調節する湯口。この先に源泉湯だまりがある。

  
こちらが源泉湧出口の一つ。ぶくぶく泡が出ています。   廃湯口もしっかり整備している。湯を抜いて清掃できるような工夫だ。   簡易脱衣所も手作り。

  
雄志によって架けられた屋根。感謝感謝です。    こちら今は利用不可能となった露天風呂跡地。   跡地から吊り橋を臨む。